2007年2月25日、第2回“日本生殖医療エンジニアリング研究会”学術集会が、都市センターホテルに於きまして、田中 温集会長のもとに無事開催され、盛会の裡に終了いたしました。毎日のように暖冬と伝えられておりました今年ですが、当日の東京は、この冬最も寒い一日となりました。第1回と同様に150人余の研究者の方々にお集まり頂くことが出来ました。誠にありがとうございました。前回は立ち上げの会と言うことも有り、日本の生殖細胞を用いた生命科学の歴史・技術を取り巻く倫理的問題など総論から集会が始まりました。今回はそれを踏まえ、日本の生殖細胞を対象とする分野の、文字通り第一人者を、講師としてお招きしまして会を進める事となりました。この構成は、代表、集会長、世話人会に於いて、話し合われ決定いたしましたが、田中 温集会長の基礎科学に対する強い興味、疑問、そして期待が良く反映され構成に至ったものと思っております。招請・特別・教育講演、そして2つのシンポジウムは、当然の事ながら非常に内容の濃い、聴衆の気持ちを放さない興味深いものでありました。各セッションで、会場内は白熱した討論が交わされました。ご登壇いただきました各先生方、会場にお越し頂きました先生方に対しまして感謝の念に耐えません。
招請講演では、日本に於きましてES細胞を唯一樹立されました、京都大学再生医科学研究所長、中辻憲夫教授から、ES細胞の機能の解析、世界のES細胞研究の現状ついてお話頂きました。また、日本におけるES細胞の今後の利用について、再生医学研究という観点からの課題についても触れて頂きました。
河野友宏教授、小川毅彦博士らは、特別、教育講演として、今、正に注目の的であるゲノムインプリンティング、精子系幹細胞の体外分化能の検討について、大変理解し易くお話いただきました。生殖細胞のユニークなリプログラミングの過程、それは、複雑且つ、多くの遺伝子が関与していると考えられ、ブラックボックスではありますが、ある遺伝子については、生殖細胞の機能の一端を説明する挙動をとっており、その再現性も認められ、正常な生殖現象を理解する上で、重要な情報を学ぶことが出来ました。小川毅彦先生のお話では、精子幹細胞の体外培養について、またさらに、その多機能性を有することを見出し、ES細胞と同様な可能性を有していることについてご講演頂きました。
シンポジウムは、2つを計画し、講演者の方々には非常に詳細・明確なデータを呈示して頂きました。それぞれの座長に、最もわが国でふさわしい、久保春海先生、佐藤嘉兵先生、香山浩二先生、森本義晴先生をお迎えし、まとめて頂き、その結果、いずれも予想以上に熱心な討論が繰り広げられました。非常に興味深いテーマでありますが、基礎的な研究の実際については解明されていない領域であります。シンポジウム1の核置換(細胞質置換)においては、田中温集会長、渡辺誠二先生からは、再構築卵の受精能、染色体の形態、異数性について報告されました。また、佐藤晃嗣先生からは細胞質内の重要なミトコンドリアの立場から、受精現象における機能について解説され、ミトコンドリア病に対する遺伝子治療の可能性についてのお話がされました。
シンポジウム2は、今後の臨床応用が期待されます、未成熟卵の体外培養についてディスカッションされました。本会幹事でもあります、島田昌之先生のお仕事は、緻密でかつ網羅的、壮大とも言える解析からの結果で、体外培養に影響する内分泌環境、免疫応答そして遺伝子発現までを、論理的に説明され、その業績の大きさに感動いたしました。長谷川先生は、卵巣組織の体外培養のデータを示され、産仔を得たという素晴らしいデータを示して頂き、今後の卵巣バンキング可能性を示唆して頂きました。松居靖久先生からは、トピックスとなっております、エピジェネティックな変化についての検討で、生殖細胞特有の減数分裂のメカニズムの解明についてご講演頂きました。
このように、まだまだ解明されていない現象は多くありますが、それぞれのエキスパートが深く、強い探究心の基に研究をされ、臨床的な現象の基礎的証明が少しずつ、確実に前進していることを感じました。次回のシンポジウムも魅力あるテーマに取り組みたいと考えております。ランチョンセミナーでは、鈴木秋悦先生に座長の労を執っていただき、
宇津宮隆史先生の、教科書には無い、臨床最前線での工夫・コツについてお話頂きました。
このように、生殖細胞を用いた生命科学分野は、今後現在の医療をより発展させるため、不可欠な分野であり益々の研究が必要である事は言うまでもありません。そして、わが国の生殖医療に於いての基礎的研究は、世界的最先端を走っており常に各国からも注目を浴びております。これは、非常に誇らしいわが国の知的財産であり、そこで臨床医学と崇高な倫理観を持って協力する事は、科学の本来の姿であり、使命であると考えております。結果は大きく進展するものばかりとは限りません。しかし、参加頂きました研究者の方々一人一人が、熱い情熱をもち、さらに協調して行くことが出来れば、日本からゆっくりであっても、確実な戻ることの無い、大きな波を世界に向けて送り出す事が可能であると信じて止みません。
ご協力を賜りました、各、医療機関、生殖医療関連会社、事務局の皆様に深謝いたします。次期学術集会は、森 崇英 代表が会長として、また「日本生殖再生医学会」と改め、第3回の学術集会としての開催を2008年3月30日(東京)に予定しております。
次回に向けて、口演・ポスターによる一般演題を募集し多くの研究者の発表の機会となるように、また若い基礎研究者の参加や、他会とのジョイントセッションなど、会の構成も検討して参る予定であります。さらに、有意義な会となるよう努力を重ねて参ります。皆様より一層のご協力をお願い申し上げます。
2007年3月
日本生殖医療エンジニアリング研究会
幹事 竹下直樹(東邦大学)
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